以下は2002年1月2日に亡くなった城倉貞子さんが、野原えみのペンネームで、わたしの本のことを書いて下さったものです。掲載は、トロントの日系新聞「日加タイムス」2000年8月4日号でした。貞子さんとのやりとりは2000年7月なかば。昔の電子メールから、貞子さんがわたしの本の出版をとっても喜んでくれたこと、どんどん宣伝しないとだめだよ、と親身になってくれたことなど思い出します。貞子さん、こちらが気恥ずかしくなるほど誉めてくださったし、自己宣伝みたいなことは控えたかったのですが、でも、遺稿のひとつとして、ここに掲載いたしますわたしのような埋もれた存在の日系女性をトロントの日系社会に知らせたいという、貞子さんの真摯さが伺えるかと思います


梶原由佳著 「『赤毛のアン』を書きたくなかったモンゴメリ」
―モンゴメリ研究を通し、日加の架け橋となって活躍中―

野原えみ(城倉貞子)

最近、インターネット書店であれこれと検索作業をしていたら、偶然にも梶原由佳という名前を目にした。彼女の本「『赤毛のアン』を書きたくなかったモンゴメリ」が出版されたことを知ったのだった。

モンゴメリといえば、梶原さんが寄稿したという「モンゴメリ・アルバム(英語版)」について、昨年の日加タイムス6月25日号で、紹介させていただいたので、読者の皆様も記憶に新しいことと思う。 今回は、2000年4月に出版されたばかりの「『赤毛のアン』を書きたくなかったモンゴメリ」をご紹介すると共に、彼女自身の横顔や背景についても触れてみたい。

まず、「赤毛のアン」やモンゴメリを研究し始めた理由は何でしょうか。

1988年に東京からトロントに移住して来て、図書館員として働き始めたのですが、私が日本人だからという理由で、来館者から「日本人はどうして『赤毛のアン』 を好きなの?」という質問を受けるようになりました。 少女趣味とは縁がなかったので(笑)、それまで「赤毛のアン」を読んだことがなかったのです。質問に応えるためにアン・シリーズを読む羽目になりました。

それと同時に原作者モンゴメリに興味を持つようになり、出版されている本や論文など片っ端から読んでいる内に、深みにはまってしまいました。職業柄か、書かれていることを確認しないと気が済まなくなり、モンゴメリの故郷や暮らした町や村にまで出かけ、地元の人たちに直接話しを聞いたり、資料館を訪れたりもしました。

何かモンゴメリ関連で活動をされていますか。

96年に、それまで調べたことを元にして、モンゴメリを紹介するウエッブ・サイトを作りました。インターネットの普及のせいか、世界各地からモンゴメリを研究している学者や学生、それに作家の方々の依頼で、調査の手伝いをすることがあります。 98年には、プリンスエドワード島で行われたモンゴメリ学会で論文発表をしたり、インターネットのメーリングリストでは、モンゴメリ作品討論会に参加して情報交換等行っています。

また、モンゴメリの暮らしたリースクデール牧師館を記念館にする基金集めの宣伝をボランティアでやっています。

本の出版経緯についてご説明いただきますか。

私のウェッブ・サイトを見てくださった、東京在住の作家松本侑子さんから電子メールをいただき、交信が始まりました。彼女が97年にトロントを訪れた際には、オンタリオ州のモンゴメリのゆかりの土地をご案内し、色々とお話しているうちに、「本を出してみたら」と力強く勧められました。でも、いきなり本の執筆には無理があったので、まず、98年夏から1年半にわたって、月刊誌「翻訳の世界」に「モンゴメリ通信」という連載をすることになりました。それを元に原稿を起こして、今回一冊の本にまとめることができました。それにしても、名もなき者の書いた原稿に興味を持ち、積極的に出版された青山出版社さんには、頭が下がります。

それでは、本の内容を簡単にご説明いただけますか。

「赤毛のアン」とそれ以降のモンゴメリについて3部に分けて書きました。第1部では、プリンスエドワード島のモンゴメリと、オンタリオ州で過ごした後半生を書きました。第2部では「赤毛のアン」の読者とモンゴメリのやり取りについて触れています。最後の第3部では「モンゴメリを愛する人々」と題し、モンゴメリ研究者、ご遺族、関係者にお会いし、自分の目や耳で確かめたことをまとめました。

この本の特色とか強調された点はどんなところでしょうか。

これまで、モンゴメリといえば、彼女の生まれ故郷のプリンスエドワード島ばかりが注目されていますが、オンタリオ州での知られざる顔を紹介しました。同時に、村の人々のモンゴメリ史跡保護運動や関連行事、モンゴメリ関係者の生の声を入れました。モンゴメリ・ファンにとっては、貴重な情報になるかと思います。

どんな人を対象に書かれましたか。

本のカヴァーに作家の松本侑子さんが書いて下さったように「アンを愛する人すべて」に読んでいただきたいです。でも、アンやモンゴメリに縁がなかった方でも、この本一冊で基礎知識がつくと思いますよ。

裏話のようなものをお聞かせください。

実は、書名決定がたいへんでした。候補は幾つもあったのですが、「人目を引くタイトルを」という出版社側の意向で、現在の書名に決定されました。私は、「赤毛のアンを書きたくなかったモンゴメリ」とは、宣言していないんですが(笑)。でも、表紙には私の意向が反映され、"Anne and After(「赤毛のアン」とそれ以降のモンゴメリ)"という意味を込めた英語の書名を入れていただけたので、満足しています。

残念だったのは執筆期間中の三月に父が急逝したことです。書きかけの原稿を持参して急きょ帰国。葬儀の翌日には、鹿児島の実家から東京の編集さんへ電話して、打ち合わせをしたのですが、お線香の煙の中で「一体自分は何をしているんだろう」と奇妙な気分でした。

本に対する読者の反応はいかがですか。

日本からの電子メールで「第3部、地元の人の紹介部分がとても面白い。あなた以外の人には書けなかっただろう」と40代の男性。「モンゴメリの労苦を知って、以前にも増して、深く彼女の作品を味わっています」とか、秋田や石川県の方からも「読みましたよぉ」という嬉しい声が届き、感激しています。 6月4日号の読売新聞で書評が掲載されたといって、日本の読者から新聞が送られてきた時には、予期せぬ評価にびっくりしました。

職場のカナダ人同僚に見せたら、表紙が「ビューティフル」と絶賛されました。だって、中身は読めませんものね(笑)。 何よりだったのは、本の中に登場する地元の方々が出版をたいへん喜んでくれたことです。「モンゴメリの思い出を偲ぶバラ博物館」を運営されるハットン御夫妻から「既に、あなたの本を持参で日本から訪ねてきた人がいますよ。博物館を宣伝してくれてありがとう」の連絡をいただきました。

出来上がった本を手にした時の感想はいかがでしたか。

可愛いアンのイメージより、落ち着いたモンゴメリのイメージになっていたので、気にいっています。素敵な装丁を仕上げてくださった、郷坪浩子さんという凝り性なデザイナーさんのお陰です。松本侑子さんのサポートや幾人もの方々の熱意が込められているので、本が届いた時には、モンゴメリが「赤毛のアン」の初版を手にした時のような「人生の画期的な出来事」の気分を味わいました。

現在の執筆活動や今後の展望をお聞かせください。

現在、月刊誌「eとらんす」に、「赤毛のアンの本棚」という連載をしています。アン・シリーズに登場するヴィクトリア時代の児童文学作品や、モンゴメリが親しんだ作家を紹介しています。(アンデルセン、キャロル、ディッケンズ、キップリング、オルコットなど。)これからは、作家モンゴメリの作品の奥行きをもっと追求していきたいと思います。

最後に何か一言添えていただけますか。

モンゴメリも私も大の愛猫家なんです。猫はペットではなく最良の友ですね。親友2匹の励ましと慰めがあったから、執筆活動にも熱が入りました。

ここに筆者の書評を添えると同時に、日加の架け橋となってモンゴメリ活動に余念がない梶原さんに、心から声援をお送りしたいと思う。この本を読み終えてみると、「赤毛のアン」がどのようにして生まれたのか、なぜ、日本人の心を魅了したのか等がよくわかる。そしてモンゴメリがトロントにも大いに関係があったことを知り、意外な収穫を得た。

本の帯にある、松本侑子氏の「梶原さんは、世界でいちばんモンゴメリに詳しい人だ」という言葉が、実感として伝わってくる。この本は、「赤毛のアン」の持つ少女趣味的なイメージを脱した研究書に匹敵する。それを写真入りで説明してあるので読みやすく、誰にも理解できることだろう。これまで知られていなかったモンゴメリの側面や、彼女にゆかりある土地の人々を紹介したという点で、日加にとって、あるいはファンにとって、まさしく、画期的な出来事を意味していると思う。

梶原由佳(かじはらゆか) 鹿児島県出身、1988年にトロントに移住。
現在、トロント公共図書館オズ ボーンコレクション室勤務。
執筆活動面では、The Avonlea Traditions Chronicleをはじめ、時折日加タイムスにも寄稿。
月刊誌「eとらんす」に、「赤毛のアンの本棚」を連載中。
カナダ児童文学研究誌CCL(No.91/92,1998年)に共著論文 "Montgomery's Island in the Net" を発表。
ホームページにモンゴ メリ情報を掲載している。ウエッブ・サイト http://yukazine.com
青山出版社のウエッブ・サイト http://www.aoyamapb.com
「『赤毛のアン』を書きたくなかったモンゴメリ」 梶原由佳著 青山出版社 ISBN4-900845-94-9

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城倉貞子さんは「真矢ときこ」のペンネームで乳がん体験記をトロントの媒体に発表し続けた。記事は、週刊新聞「日加タイムス」、「ニュー・カナディアン」(現在休刊)、月刊新聞「日系の声」、季刊誌「オーロラ」などに掲載され、反響を呼ぶ。日本の社民党機関誌「社会新報」にての連載は計18回に及んだ。乳がん関連記事以外にも、トロントでの子育てに関する記事や、日系女性へのインタビュー記事を「野原えみ」のペンネームで発表した。

(2002年1月)コピーライト 城倉貞子&梶原由佳

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