「カナダの文化を支える女性たち」
〜リースクデール牧師館、カナダ史跡に認定〜

トロント北東に、アックスブリッジの町とそこからやや北方にリースクデールの村がある。このところ、この土地はホットな話題でもちきりだ。それというのも、97年2月、カナダ連邦政府がリースクデール長老派教会向かいにある小さな牧師館をナショナル ヒストリック サイト(国家重要史跡) に認定したのである。

この白壁の牧師館、現在はアックスブリッジの町の所有だが、国家財産に選ばれたのには特別な理由がある。あの「赤毛のアン」で一躍国際的にも有名になった作家ルーシー モード モンゴメリ(1874〜1942) が実際に住んでいた家なのだ。

プリンスエドワード島 (P.E.I.) で生まれ育ったモードだが、人生の後半を過ごしたのはオンタリオ州各地であった。1911年に牧師ユーアン マクドナルドと結婚後、P.E.I.を離れ、リースクデールへ移り住んできた。彼女はここで二人の息子を授かるとともに、夫の仕事を手助けしながら、1926年にこの地を去るまでの15年間に11もの長編小説、数多くの短編小説、詩、及び日記を書き残している。

このカナダの女性作家のファンであるウィルダ クラーク夫人(83歳)をはじめとする町の有志たちは、なんとかこの貴重な牧師館をモンゴメリ記念館として保存できないかと考えた。10年以上も前のことである。女性メンバーで「モンゴメリ委員会」を発足させ、カナダにおける作家モンゴメリの重要性を町の人々に説き続けるとともに、連邦政府や州政府宛に史跡として認めて欲しいというレターキャンペーンを続けた。

それにもかかわらず、数年前には連邦政府から申請却下の返答を受けてしまう。理由は、著名人ひとりにつき国家認定史跡は国内一箇所に限るというもの。モンゴメリに関しては、P.E.I.に「グリーンゲイブルズ」を有する国定公園が既に存在するため、リースクデール牧師館は問題外とのことであった。

しかし、ここでへこたれるクラーク夫人達ではなかった。「グリーンゲイブルズはアンの作品の舞台であり、フィクションの世界。牧師館はモード自身を記念するためのものである」という主旨のもとに連邦政府に手紙を書き続けた。同時に、図書館や公民館などで寄付集め運動を細々と続けながら、牧師館をモンゴメリ記念館へ実現する夢を持ち続けたのである。

彼女たちの活動を知った日本のモンゴメリファンクラブ「バターカップス」から、昨年、約1700ドルに及ぶ寄付が届いた。カナダの文化遺産継承に日本の人達が援助の手を差し伸べてくれたことにクラーク夫人とモンゴメリ委員会メンバーは心から喜んだ。

そして、今年、異例にも連邦政府が牧師館を重要史跡として認めたのである。「政府は私達からの手紙を受け取るのにあきあきして、とうとう認定したのでしょう」と冗談をいうクラーク夫人。彼女たちの地道な活動がなければ、あの牧師館は朽ち果ててしまう運命にあっただろう。

今やRCMP (Royal Canadian Mounted Police) のイメージも米国ディズニーに買い取られてしまったカナダ。あらゆる面で文化のアメリカナイゼーションが進むなかで、この国に残されたのは、いったい何があるのだろうか。

クラーク夫人の笑顔を思い起こす度に、カナダの文化を底辺で支えているのは、もしかすると小さな町や村の女性達かもしれないと思うこの頃である。

(上記文章は、「日加タイムス」1997年3月14日掲載原稿に加筆訂正したものです。)

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