ヘミングウェイの猫
キー・ウェストのヘミングウェイ記念館を訪ねて
アメリカはフロリダ半島の突端から南西に点在する島々は、猫の爪痕のように伸びる一本の国道で結ばれている。途中マラソンの街を通過し、景観美で有名なセブンマイル・ブリッジを渡り、更に南へと車を走らすと最南端のキー・ウェストに着く。昔から猫人口が多く「猫たちの小島」とも呼ばれている土地である。
ここには、ノーベル賞作家アーネスト・ヘミングウェイ(1899-1961) の邸宅が残っている。コロニアル調の優雅な二階建ての家で、彼は二番目の妻ポーリンと1930年代をここで過ごした。

現在、ヘミングウェイ記念館として年中無休で観光客を迎えている。主の居ないこの邸内に棲んでいるのは、なんと40匹を超す猫たち。その半数が、海の男たちから縁起が良いとされている6本指の猫だという。彼らは南国の植物が茂る庭をゆうゆうと闊歩している。それにしてもどうしてこんなに多くの猫がいるのだろう。

ヘミングウェイが住んでいた頃に近隣の猫たちがやってきて住み着いたという説もあれば、親しくしていた船長から白い子猫をヘミングウェイが貰い受けたのが始まりという説もある。その猫は母猫スノーボールに似ていたため、雌にもかかわらずスノーボール・ジュニアと名付けられ、かわいがられた。船長の孫娘が記念館に宛た1997年4月27日付けの手紙がそう語っている。

スノーボール・ジュニアの直系子孫に出会えるかもしれない。訪ねた日は3月末とはいえ気温は20度を超し、海からは初夏の風が吹き、頭上には海鳥たちがギャギャアと鳴きながら舞っていた。恐竜映画「ジュラシックパーク」を思いながら記念館の門を抜けると、玄関前の茂みで早速会いました! 6本指の猫さんに。客慣れしているようで、触られても平気というお顔。
庭で見られる珍品といえば、スペイン製のオリーヴの大きな壺の下に据えられた猫専用水飲み場である。この白い大きな容器は、実はヘミングウェイが行きつけのバー「スロッピー・ジョーズ」から持って来たという男性用トイレ!豊富な水が絶え間なく流れ、ここでノドを潤す猫を何匹も目撃した。

庭には所々に餌場が設置されていて、好きなときに食事ができるようである。ベンチで丸くなっている猫の横に座って記念撮影をしているカップルがいる。ここでは猫を抱き上げることは禁止されているものの触るのは大丈夫というわけで、猫好きにとっては楽園である。
一階の居間のソファには「着席厳禁」の紙が置いてあったが、我関せずとばかりに灰色猫がお昼ね中。二階のヘミングウェイの寝室には、ツイン用のベッド二つを繋ぎ合わせたという大きなベッドが有り、重厚なヘッドボードはスペインの修道院の門扉だったという。この日、白いベッドカバーの上でくつろいでいたのは、茶色のアーチボルド・マックレイッシュ君(ヘミングウェイの友人作家の名)であった。「警報機を鳴らすいたずら猫もいるので、屋内には入ってほしくないのですが」というガイドさんの声も猫の耳に念仏なのである。

ギフトショップでは、三毛猫から挨拶を受けた嬉しさのあまり、猫を抱くヘミングウェイや猫を横に執筆中の彼の姿の絵はがきを何枚も購入してしまった。

幼少時から動物好きだったヘミングウェイは猫を絶大なる友とし、晩年は、大怪我や数々の病いに悩まされながらも猫に癒される日々を過ごした。アフリカでは獣狩りに夢中になり、スペインでは闘牛に血をたぎらす。海ではボートで釣りに出る、陸ではボクシングで殴り合う。そんな男性的な彼が、愛する女性たちへの手紙の中で彼女たちを猫の愛称で呼びかけていた。彼にとって女性を猫にたとえるのは最高の賛美であったことだろう。
猫が執筆のインスピレーションとも語ったという文豪ヘミングウェイ。「誰がために鐘は鳴る」「武器よさらば」「老人と海」などの数々の名作は、実は、猫の存在なしには生まれ得なかったのであった。
The Ernest Hemingway Home & Museum
907 Whitehead Street,
Key West FL 33040
U.S.A.
http://www.hemingwayhome.com/HTML/main_menu.html